人の幸せを祈る
 
白髭の老人  

 

 

   白髭の威厳ある老人は、

   突如として眼前に現れ

   こう言った。

 

それは

大挙して飛ぶ鳥が1匹だけ軌道を外れてしまうようなものだ。

いつの日か

愛を忘れ、憎しみ・奪い合い・ねたみ合いの意識体が生まれてしまった。

時としてそれは、法則の通りに、他を吸引し、増殖する性分を保持した。

再起不能、暗く閉塞された暗黒の意識界だった。

天は、その姿を

見つめれば見つめるほどに

涙なしで見つめることは出来なかった。

しかし、一縷(る)の望みを託した。

暗黒の世界から、

低きが再起可能な世界を・・・

法則として

高いものと低いものは、同居できない

しかし、連鎖している。

ならば、連鎖を礎に、高低をすり合わせる中で

暗黒世界に「愛と許し」が育まれることに夢を託した。

そのために、

時空に密度の差を生じさせ、密度の差が両極を生み出し

太極・陰陽をベースとした3点連鎖の仕組みを構築した。

「愛」を成就するためである。

また

細密な意識体は、粗いものに封印する必要があった。

なぜなら

精妙な意識が露呈すると同類しか寄り添わないからである。

粗くすれば異質が混在できる

そのために粗いBody(体)が必要だった、

肉体という粗い粒子に

魂を封じる事で混在が可能となる。

当然

その肉体に適応する「空間ありき」となる。

それが地球である。

1気圧、0.3ガウス・・・・

絶妙に、何十億年という長き時間をかけて

その空間は設定された。

そして

魂が混在・循環し、「愛」に通じる「気づき」をもたらすべく

異質は「層」にして混在させ同時進行させた。

そのために物理空間に、境界が生じ、界面・膜が生じた。

それらをこの地上で可能にしたのは「水」である。

水が境界を潤(うるお)し、情報伝達したからである。

やがて

人はその空間の中で

 

   ・大自然の循環する姿に、

      生かされているという事実を知り、学びが稼働し・・・

   ・命に感謝し、愛を育て、愛に満ち・・・

 

そういう不動の愛の世界が構築されるに違いない、そう信じた。

自然の循環する仕組みは、完璧なまでに絶妙だった。

かくして

業(カルマ)を背負う異質の魂が、

地上に役割(使命)をもって誕生し、混在する仕組みが構築された。

だから、この仕組みの中では

ぶつかり合いが常となる。異質が混在しているからである。

しかし、それは「ぶつかり合い」ではない、「摺(す)り合わせ」である。

「ぶつかり合い」も「摺り合わせ」もその現象だけを見ると同じだが

その心は、大きく違う、この違いは、あまりに大きい。

「ぶつかり合い」と言うとき、そこには、固定された自我がある。

「摺り合わせ」と言うとき、そこには、フレキシブル(柔軟)な自我がある。

フレキシブルな自我は変容を可能とし、3点目を産み出す。

この3点目をフラクタルに積み重ねることで、人は魂を磨き上げていくのである。

何度も何度も積み重ねていくのである。これが地上の・・・人の世の特性となっている。

植物になぞらえるならば茎である。

生前の環境(先祖)は根に相当し、茎が人生、花→種子が完結形(死)である。

茎部では、ひたすら枝葉を同一パターンで繁茂させていくのである。

これがあってこそ、次世代の種子が誕生する。

つまり、

おごり高ぶらず、反省→3点目創出

を繰り返すのである。

だから、掃除も人間関係も仕事も、

「継続すること」

が人の世では不動の力となって輝くのである。

 

しかし、

悲しいかな、物理空間と肉体は仇(あだ)となった。

魂を高めるであろうに必要な肉体は、

魂を低める足かせとなった。

「創造力」、クリエートする心の向きを間違えたからである。

その結果

若き者は、

  粗き粒子、物質に傾注し、大儀を露忘れ

  助け合いを忘れ・・・、

    自己実現にのみ邁進・錯倒し、

  夢を正義とはき違え、一足飛びの開運に目が暗くなり、日常から遠くなった。

老いたる者は

  道徳を武器に、

  リセット(反省)を恐れ、飽食に目がくらみ、感謝の心を忘れた。

ついに人の世は、善悪と陰陽の構図を混同し

至上なる愛を落としめ、不倫を首肯し、性を商いとするに至った。

 

繰り返そう

「目の前のすべきこと」を「キチンと継続すること」

これに勝る修行はない。(関連

己(おの)が心を、己が心に向けるのだ、不条理を他のせいにしてはならない。

全て己が心の展開である。

 

そして

全ての生あるものの中で

何のために、人にだけ創造力があるのか、

何のための創造力だったのかを、よくよく考えるべきである。

そこを見つめる程に

不調和の源泉がかいま見える。

そして、人が今、成就しなければならない実相が見えてくるようになっている。

 

そう言って、静かに姿を消していった。

精神世界に精通していた彼女にとって、

その姿は、現実でないのは確かだったが、それを幻覚とかたづけるには、内容があまりに鮮明であり、

あまりに言葉の1つ1つに権威があった。めずらしく記憶にも残っている。

呆然(ぼうぜん)とした時間が流れたが、彼女は我に返って時計を見た。

「急がなきゃ!」

幻を半(なか)ば強制的にかき消しつつ、彼女は鏡に向かい化粧をした。

楽しみにしていた講演まで、あと40分、丁寧に化粧をする余裕はない、

口紅とアイラインだけを整えて家を出、何とか開演には間に合った。

 

つづく

 

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